ユーザーストーリーマッピング本出版に寄せて
祝!ユーザーストーリーマッピング出版!
川口さんを中心に翻訳を進めていた、ユーザーストーリーマッピング(以下USM)の邦訳書がついに出版されました。少しだけレビューに携わったご縁で献本頂きましたが、本書とUSMについての思い出を含めてざっと触れてみたいと思います。
ちなみに、本書は現在(2015/08/06)でも品薄なようです。入手については川口さんのブログが参考になります。
ユーザーストーリーマッピング発売になりました + 在庫の探し方 - kawaguti の日記 (id:wayaguchi)
監訳をつとめましたジェフパットンの本「ユーザーストーリーマッピング」が発売になりました。 ありがたい..
d.hatena.ne.jp
ユーザーストーリーマッピングと私
私がUSMに出会ったのは、2008年のAgile Conference 2008のJeffのチュートリアルでした。このセッションは、予定している時間が終了しても来場者が部屋に残り質疑応答を交わし続け、結局もう1コマ分延長してセッションを続けたというエキサイティングな場でした。来場者がバックログの優先順位付けや、狩野モデルについて多くの質疑が行われていたのが印象に残っています。この時のチュートリアルのメインテーマが、ユーザーストーリーマッピングです。
conferences.agilealliance.org
Agile2008から帰国後、当時所属していたチェンジビジョン内でJeffの資料の読書会を行い、その後永和システムマネジメントに戻ってからプロジェクトで実際にストーリーマッピングを使ってみて効果を実感しました。
User Story Mapping Presentation - Jeff Patton & Associates
A prioritized user story backlog helps to understand what to do next, but is a difficult tool for understanding what your whole system is intended to do. A user story map arranges user stories into a useful model to help understand the functionality of the system, identify holes and omissions in your backlog, and effectively …
jpattonassociates.com
その後2010年になって、Agile Tour Osakaの記念すべき第一回に登壇させて頂いた際に、はじめて外部向けにユーザーストーリーマッピングの紹介をしました。この時のスライドは5年かかって地味に2万ビューを越えましたが、当時大阪で発表した時には、そのあまりの反応の薄さにショックを受けたものでした。
その後、川口さんが2012年からJeff Patton氏を日本に呼んでCSPO研修を開催するようになりました。(残念ながら私は一度も参加したことはありませんが…)また、川口さんをはじめ、樽本さん、市谷さんといった方々が、各所でユーザーストーリーマッピングを実践・伝道されて、徐々に国内でも認知度が高まってきたように感じています。
本書のみどころ
ユーザーストーリーマッピングは、元々はアジャイル開発の文脈において、ブロダクトのバックボーン(背骨)を利用者のタスクを軸にして明らかにしながら、PBLの順序付けとフィードバックの嵐で見失いがちなプロダクトの方向性について関係者が共通理解を築きプロダクトの実現戦略を立てるためのツールでした。
その後、デザイン思考やリーンスタートアップの出現により、単にPBLの弱点を補うテクニックというだけでなく、顧客の文脈を深く知り、マップの上で戦略を立て、仮説を立て、MVPを見出し、プロダクトを作る前の学習サイクルを素早く回すためのツールという位置づけへと変わってきたと感じます。
本書の中でも、デザイン思考やリーンスタートアップについての言及がいくつもあります。当初のUSMが生まれたアジャイル開発の背景とは別にデザイン思考やリーンスタートアップのプロセスの中でUSMがどのような位置づけにあるかについても補足があります。
そういう意味では、本書はユーザーストーリーマッピングのやり方を解説する本ではないとも言えます。もちろん4章まではUSMを中心に置き全体像から具体的な利用の仕方の解説をしていますが、それ以降の章では、チームがプロダクトを通じて最小コスト・最大成果を挙げるためのユーザーストーリー駆動開発をプロダクトライフサイクル全般に渡り具体的に紹介している本という方が正しい気がします。
本書は写真やイラストが豊富に使われており視覚的に説明されているのが好感が持てます。ツールについても、ジャーニーマッピング、その他アレンジされたXXXマッピング、ビジネスモデルキャンバスをアレンジしたオポチュニティキャンバスなどの様々なツールが紹介されています。
こういったビジュアルフレームワーク&ツールを利用して思考するビジュアルシンキングはUSMに限らず非常に重要です。読者も、著者が提案するツールを参考にしながらも、最初の形に囚われず、自分たちで自分たちの文脈に適したビジュアルシンキングのツールを編み出していくためにも一読をオススメします。
(私もパターンキャンバスや、Customer Product Matrixなどのビジュアルフレームワークを自作したり、使ったりするのが大好きです)
本書には事例のエピソードも多数ありますが、特にエキサイティングなのは、オバマ大統領の選挙キャンペーンのエピソード(P281)です。絶対に動かせないマイルストーン、多忙なステークホルダー達とどう共通理解を築くかのヒントがここにあります。
最後に、見落としがちですが、マーティ・ケーガン氏の序文にある優れたチームはXXX、ダメなチームはXXXというリストをお勧めしておきます。自分のチームがどの程度当てはまっているかを考えてみると面白いでしょう。(私もざっと眺めてみた所、過去のチームでダメなチームの振舞いをしていた点がいくつも当てはまっていました。)
本書は誰に必要なのか?
私もここ数年は、ユーザーストーリーマッピングを含めたプロダクトオーナー(PO)向けのアジャイル研修を何度も実施しています。これまでの個人的な経験から、プロダクトの方向性を見失ってしまったり、PBLの順序付けに悩みがちなPOにこそUSMの価値を知ってもらいたいというのが研修企画の動機だったからです。そういった思いもあり、まずPOには是非読んで頂きたいと思います。(下記は先日永和システムマネジメントさんと一緒に実施した研修レポート)
「プロダクトオーナーシップジェネレーション ~価値あるプロダクトを生成する~ 」を実施しました。
2015年7月2日(木)に懸田剛氏を講師にむかえ「プロダクトオーナーシップジェネレーション ~価値あるプロダク…
sec.tky.esm.co.jp
最近では、UXデザイナーという役割の方がチームに所属するケースも多いかもしれません。そういった方々はまさにチームの先陣を切ってUSMに取り組む必要があるでしょう。
プログラマーの視点でも、USMは自分が関わっているストーリーの全体に対しての位置づけや必要性、プロダクトの目指す方向性を視覚的に理解し、チーム内での共通理解を作りながら進めるのに大変役立つツールです。
もちろん、孤独になりがちなPOを積極的にサポートする立場のスクラムマスターこそ、USMのようなテクニックを学んでおくことは必要不可欠です。
更には、スタートアッパー(アントレプレナー)の方々に読んで頂ければと思います。
自分でリスクをとってビジネス実現にひた走るスタートアッパーに必要なことは、机上での勉強よりも、ビジョン実現に向けての行動とそこから得られる学習です。
しかしながら、走りながら考え行動する際に、つい視野狭窄に陥ってしまったり、目の前の事柄に振り回されたり、顧客視点ではなく提供者視点になってしまったり、チーム内で共通認識が作れなかったり、する場面があると思います。走りながら考え行動するためにも、本書を参考にしてストーリー駆動でビジネスを作り上げるお役に立てばいいなと思います。