松山市のコワーキングスペース事情をふりかえってみた(2015年度版)


はじめに

コワーキングスペースを商工会議所に説明しに行ったのが2011年。

2012年には3つのコワーキングスペースができた。

2014年に2つが閉鎖されてしまった。

2015年に再び新しいコワーキングスペースが生まれることになった。

これまでの松山のコワーキング事情をふりかえり、これから松山に何が必要とされるのかを考えてみたいと思います。

四国のコワーキングスペース事情

7/23現在、Googleで「県名 コワーキングスペース」と検索すると、次のような結果がでました。個人的にはとても驚いたのですが、人口では四国で一番人が多いはずの愛媛県がヒット数が一番少ないという現実です。


県名 Google ヒット数
愛媛 69,200
香川 94,900
徳島 86,900
高知 77,700

この数字が何を意味しているのか、なぜこうなっているのか、それはまだわかりません。

個人的にコワーキングスペースには思い入れがあるので、これまでの愛媛(松山)のコワーキングスペース事情をふりかえってみたいと思います。

2014年までの松山コワーキング事情

私が松山に引っ越してきてから一年以上が過ぎた2011年11月に、コワーキングスペースについて商工会議所に説明に行ったことがありました。その頃は、コワーキングという言葉がSNS経由でよく流れてきた時期で、松山に来てから出張続きで知人が少なかった自分が一番コワーキングスペースを利用したいと思っていた頃でした。

この頃は、訳もわからずとりあえず商工会議所へのつながりができたので、話をしに行ったのでした。その時は自分がコワーキングスペースを開きたいという考えはまったくありませんでした。

コワーキングという言葉は使っていませんでしたが、当時からビジネスアシスト四国さんが、起業のためのインキュベーションオフィスを立ち上げていました。

では、コワーキングスペースとシェアオフィスの違いはなんでしょうか?

Wikipediaの「コワーキング」の項目を見ると、場所の共有、コミュニティ育成、仕事上の相乗効果、インフォーマルさ、という観点が重要なようです。このあたりは、人によって「コワーキング」という言葉の捉え方が異なりますので、あまり深堀はしないでおきます。

個人的に、コワーキングスペースはコミュニティ運営オーナーの個性・魅力インフォーマルなイベントが重要な気がしています。

2012年に3箇所オープン

話を戻して、商工会議所に説明に行ってから、しばらくはコワーキングスペースについては忘れていました。しかし2012年になって、立て続けにコワーキングスペースが松山市内にオープンしていることに気づいたのです。

個人的に2012年は松山コワーキング元年と位置づけています。

たねらぼ

国際支援などで活動されているNGO「たねとも」が設立したたねらぼは、2012年5月にオープンしました。松山城横のロープウェイ街にあって、立地的にはとても良い場所でした。

今現在、Facebook Pageをみると、映画の上映会や勉強会が行われていたようです。2012年5月当時では、コワーキングスペースとして松山で最初に出来た場所です。

私も一度利用したかったのですが、利用するのに前日予約が必要とのことで、後述する他のコワーキングスペースもできたこともあり、結局一度も利用しないまま終わってしまいました。

ビジネスというよりも、メインのNGOの活動拠点として、地域づくりなどの繋がりをメインとするスペースだったようです。こういったスペースも魅力的だと思うのですが、残念ながら2014年7月末をもってコワーキング事業は閉鎖されました

シトラススペースカンパニー

シトラス

松山で2つめのコワーキングスペースだったのが、シトラススペースカンパニー(以下シトラス)でした。こちらは2012年9月にオープンしました。紆余曲折あり完全ドロップインだけの料金体系となり、利用障壁が低かった場所でもあります。

私はオープン当初からよく利用していましたし(最初の顧客だったと聞いたことがあります)、Agile459などのコミュニティイベントの会場としても何度も利用させてもらいました。また、ワンコインセミナー(平日夜に500円でのミニ有料セミナー)を毎週開催していたり、台湾のコワーキングスペースと連携したイベントなども開催していました。

利用者層はプログラマー、ライター、Webデザイナーといった場所に制約のない人たちにの利用加え、アロマ、パーソナルカラー、ヘアメイクの講師の方たちがマンツーマンレッスンの会場として利用していることもありました。

シトラスは、場所の提供だけでなくコミュニティの醸成・人と人との繋がりを作る部分を重んじていたように思います。オーナーを通じて様々な人を紹介して頂いたり、Jelly(コワーキングスペース利用者同士の交流イベント)で利用者が一同に集まって繋がりを深めたり、常連同士が定期的に集まって情報交換をするなどを積極的に行っていました。

しかし、こちらもオーナーの事情により、2014年7月一杯で閉鎖されてしまいました。

ダイヤモンドクロス

ダイヤモンドクロス

シトラスに遅れること約一ヶ月、2012年10月にオープンした松山の老舗コワーキングスペースです。前述したコワーキングスペースがいずれも2014年夏に惜しまれつつ閉鎖に至りましたが、ダイヤモンドクロスだけは現在も引き続き運営されています。

スペースの名前の由来となっているダイヤモンドクロスとは、伊予鉄道郊外電車と路面電車の線路が交差して信号待ちをするという場所のことです。ダイヤモンドクロス現象を見ることが出来る日本で数少ないスポットです。

ダイヤモンドクロスも、シトラスと同様、オープン当初からよく利用させて頂いています。ここで様々な人と出会う機会を作って頂きました。現在、Agile459の勉強会のほとんどがこのダイヤモンドクロスで行われています。

JR松山駅に近いため、特に空港・JRを使って県外からいらした方が立ち寄りやすいらしく、出張者の松山滞在オフィスとしての利用も多いようです。

また学生への割引特典、ドロップイン(2h単位)の利用、会議スペースのみの利用、専有スペース利用なども可能であり、利用シーン毎に多様な使い方ができるようになっています。2015/08/01からは、月額会員向けに24時間利用が可能になるそうです。

オーナーの室節さんは、イベント・セールスプロモーションの支援事業を営む株式会社ウィットプランの代表でもあり、本業をこなす傍ら、コワーキングスペースの運営をしています。そのため、コワーキングスペース利用者の製品・サービスのセールスプロモーションや拡販アイデアに非常に長けています。そのため様々なコラボレーションが生まれています。

また室節さんは、EVN(愛媛ベンチャーネットワーキング)の運営にも携わっており、県内起業家ネットワークとのコネクションも多数お持ちです。

愛媛の起業・創業支援団体|EHIME VENTURE NETWORKING【EVN】

EHIME VENTURE NETWORKINGのサイトです。

ehimevn.info

EVNとは別に、ダイヤモンドクロスを拠点として毎週月曜に開催されている起業家支援コミュニティであるS-CROWDを共同主催しています。

これらの背景もあり、ダイヤモンドクロスは起業したい人たち(年齢問わず)の駆け込み寺的な場所になりつつあります。実際、ダイヤモンドクロス・S-CROWDから、いくつものビジネスアイデアが実際に事業化され巣立って行っています。

現在、注目しているのは松山のローカルヒーローであるマツヤマンプロジェクトです。

マツヤマン

後発のコーワキングスペース

ソーシャルオフィス プログレッソ

こちらは、松山で不動産を本業とする三福ホールディングスさんが経営している、ソーシャルオフィスです。2013年から設立されており、現在は松山市内に3店舗立ち上がっています。個室のオフィスとコワーキング的な共有スペースのオフィスがあり、選んで利用することができます。

三福さんはソーシャルマンションというコンセプトのマンションも打ち出しており、新しい事業に積極的に取り組む不動産会社というイメージがあります。

プログレッソはセキュリティ完備で24時間出入り自由です。そのため特に「夜型作業がメイン」という方に向いているかもしれません。こちらはドロップインはないため、ふらっと立ち寄る利用はできません。

マツヤマンスペース

マツヤマンスペース

松山市駅徒歩30秒のコワーキングスペース

ehime.in

2015年7月から新しくオープンしたのがマツヤマンスペースです。大阪の「オオサカンスペース」と提携しており、大阪出張が多い人には便利だそうです。

大阪のコワーキングスペース : Osakan Space (オオサカンスペース) : 本町駅すぐ御堂筋沿い

電源とWi-Fiなどを完備した新しい形の会員制オフィス。40坪(106平米、40席)開放的で、明るくて、アットホームな空間です。時間や場所に縛られず、楽しくて自由な、成長できる環境で仕事をしたい人が集まっています。相談相手・仲間・刺激を求めてくる方や勉強できる場所・第二の仕事場所・起業のためなど用途は様々です。

www.osakan-space.com

中央会計さん、会社設立などの手続きを格安でサポートするFirst Stepさんが運営しているため、月額プラン(7800円)には経理サポート(月1回)が含まれているのが特長です。

基本は月額会員がメインで、ドロップインは完全予約制でのみ可能ですが、現在はオープンに伴い8/10までは無料期間で自由に出入りすることができます。場所も松山市駅の目の前なので一度訪れてみるとよいでしょう。

注:オープン最初の週に早くもレポートがanywherさんに上がっていました。

これまでをふりかえってみて

これまで松山でコワーキングスペースが苦戦していた理由としては、そういったコワーキングという言葉・ワークスタイルに魅了を感じる人が少ないという事実もあるのではないかと感じます。

例えば、フリーランスでWebデザイナーをしている人は相当数いるはずですが、自宅の整った作業環境から、敢えて外にいく必然性を感じない、既に仕事を一定数こなしているため、新しい出会いの機会を求めていない、などがあるのかもしれません。

また、ソフトウェアエンジニア目線で言うと、松山で個人でプログラマーをやってる人はあまりいないのではないかとも感じていました。個人でやっている人がいるとしても、顧客(IT企業)に常駐してプロジェクトに参加している人が大半なのかもしれません。

また、特定の業種や多様な業種において、人が集まって情報交換・勉強会をして新しい発見がある、繋がりの中で新しい何かを起こしていくワクワク感といった体験を提供するコミュニティという存在を知らない・関心のない人も多いのかもしれません。

最大の理由はコワーキングスペースという場所自体をよく知らないというのが現実なのかもしれません。

経営上に関して言うと、ドロップイン、イベントスペース貸しのような安定しない収益はメインにならず、月額会員・個室契約といった安定収益の求められるサービスがメインになります。そうなると、顧客の流動性が低くなり、新しい人が訪れるというよりも、安定して顧客を獲得する方向に倒れます。健全な経営を行うためには安定した収益構造が必要不可欠ですが、コワーキングスペースとして実現したかったことの理想と現実との狭間の中で、いかに当初やりたかったことを見失わずに現実を近づけていくかが困難ですが大事だと感じます。

コワーキングスペースオーナーでもない筆者に細かな分析はできませんが、いずれにせよ、松山でコワーキングスペースが生まれてからまだ3年です。これからが地域におけるコワーキングスペースの真価が問われる時期だと思います。

松山コワーキング事情まとめ

2011年からコワーキングスペースが松山に欲しいと思い、実際に2012年からコワーキングスペースを使ってきていて感じるのは、コワーキングスペースとは単に場所を貸すだけの場所ではなく、そこで人と人、アイデアとアイデア、スキルとスキル、ビジネスとビジネスが繋がり、新しいものが生み出されていくという創発スペースであることが重要であるということです。

その創発を生み出すには、単に「場所を貸していれば、人が自然と集まり、そこで自然発生的に何かが生まれる」という受け身のスタイルではなく、オーナーが自ら人と人を繋げ、アイデアとアイデアをマッシュアップし、ビジネスとビジネスをコラボレーションさせるコネクターとなり、創発を意図的に生み出していく仕組み・行動が重要となります。

そういう意味で言うと、もはや「コワーキング」という言葉にはあまり意味がないとも思います。その場所から生まれるコラボレーションコクリエイションコイノベーションが重要で、それらが自然発生する場所にどうデザインしていくかが最も重要ではないかと考えます。

そういった場所が松山で継続的に運営され続け、他にも増えていくことで、地方のイノベーション機会も増えていくのだと信じています。

今後も、松山のコワーキングシーンで頑張っている方々を応援しつつ、自分も当事者として関与していきたいと思います。

追記(7/23)

マーケティング・ヴァンガードさんが、2014年5月に松山のコワーキングスペースについてまとめ記事を書かれていました。ビジネスアシスト四国さんを利用されているそうで、雰囲気はレンタルオフィスというよりコワーキングスペースに近いそうです。

他にも、夢叶えシェアオフィスさんや、愛媛県、今治市、新居浜市、西条市などの自治体が提供しているインキュベーション施設への言及もあり参考になります。特に起業を目指してオフィスを検討している方は参考にするとよいと思います。

《起業家向け》 愛媛のレンタルオフィス・コワーキングスペース | 顧客獲得のための戦略的WEBマーケティング|マーケティング・ヴァンガード

以前書いたレンタルオフィス・コワーキングスペースの記事ですが、コワーキングスペースを1件追加しましたので再度ご紹介します。 起業したい、と考えたときに悩みのひとつがオフィスをどうするか、という問題です。 自宅をオフィスとする人が多いですが、小さい子供がいる場合など自宅で仕事をするには不向きな環境である場合もあります。 そんなときに便利なのがレンタルオフィスやコワーキングスペースといったオフィスの一部を借りて、自分のオフィスとして使用する、という方法です。 インキュベー

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