ライトニングトークスの歴史(original version)

はじめに

この記事はエンジニアマインド Vol.3に寄稿したライトニングトークスの歴史という記事の校正前原稿を公開したものです。同じくエンジニアマインド Vol.3に寄稿されたあまのりょーさんの記事と合わせてお読み頂くと、ライトニングトークスに対する理解が深まるはずです。

ライトニングトークスの歴史

Organization
(株)チェンジビジョン/オブジェクト倶楽部(執筆当時)
Special Thanks
永和システムマネジメント agitators

はじめに

最近のオープンソースコミュニティや、IT技術者コミュニティのイベントでは必ずといっていいほど開催されるのが「ライトニングトークス(以下LT)」です。1人5分の持ち時間で11人、55分の間にトーカー(話す人)の熱いショートトークが繰り広げられるこのトークスタイルが日本に紹介されたのは、今を遡ること遡ること6年前の2001年のことです。本稿では、この素晴しいLTの誕生と発展の歴史のページを、読者の皆さんとめくっていきたいと思います。

誕生 - 君にもできるカンファレンス発表

LTが世界で初めて開催されたのは、2000年7月にカーネギーメロン大で開催された「YAPC 19100(YAPC::NA2000)」 1 、考案者はMark J. Dominusさんです。氏のサイト 2 には「LTとは何か」の解説があります。その日本語訳がShibuya Perl Mongersのサイト 3 にあるので以下に引用してみます。

なぜLTなのか:

いままでにセミナーの講師をやったことない人でも、小さいものならできるかもしません。 Lightning Talk なら、スライドをつくらなくてもいいし、作るとしても、2,3枚で十分です。

失敗するんじゃないかと心配するかもしれません。5分のトークなら、準備も簡単。 もし失敗したとしても、すぐに終わるんだから気にすることはないんです。

LTは普段セミナーでの発表や講師経験がないような普通の人でも、気軽に壇上に立って話せる、「敷居の低いトーク」を目指して考えられているのです。YAPC::NA2001のCall for Participation 4 を見ると、LTはトークの一形態(リスト1)として列挙されています。他のトークに比べると、Lightningはたった5分で「俺にもできる」と思わず考えてしまうのではないでしょうか。

リスト1 YAPC::NA2001のトーク種類:

  • Lightning: 5分
  • Standard: 20分
  • Long: 45分
  • Extra-Long: 90分
  • Tutorial: 3時間+休憩

黎明 - 日本に辿りつくまで

ここでYAPC 19100でどういった形でLTが開催されたかを調べてみましょう。YAPC 19100のLTのスケジュール 5 を見るとプレゼンの開始時間がきっちりと書かれています。内容をよく見ていくと、なんとプレゼンターが16人もいました。先のMark J. Dominus氏のサイトによると「Lightning Talks は60分もしくは90分の枠に、5分間のトークをつめこんだもの」とあります。日本で開催されているLTは60分スタイルがほとんどですが、本家では90分版が元々のスタイルのようです。

次に開催されたのが、2000年9月のYAPC::Europe 6 のようです。ここでは、LTを2トラック同時開催で、時間は45分間、8人のトーカーで開催されていました。その次に開催されたのが、2001年6月のYAPC::NA2001です。ここのLT 7 も16名の90分スタイルになっています。更にその次のLT(TPC 2001) 8 、その次YAPC 2002 9 でも16人のトーカーによって構成されています。

こうして初期のLTを見ていくと、25分や30分といった短かいトークもありますが、基本的には90分スタイルで開催されているということがよくわかります。

時期 イベント名 開催国 時間
2000-07 YAPC 19100 アメリカ 90分
2000-09 YAPC::Europe イギリス 45分
2001-?? TPC アメリカ 90分
2001-05 YARPC 19101 日本 60分
2001-06 YAPC::NA2001 アメリカ 90分
2001-08 YAPC::Europe オランダ 25分
2001-09 LC 2001 日本 60分
2002-06 YAPC 2002 アメリカ 90分
2002-07 XP祭り 日本 60分
2002-09 YAPC::Europe ドイツ 30分

表1 初期のLTの開催時期とその時間

上陸 - 日出づる国に雷鳴轟く

本家LT開催から遅れること10ヶ月、日本で初めてのLTが開催されたのは2001年5月のYARPC(Yet Another Ruby/Perl Conference) 19101 10 でした。本家はPerlだけのカンファレンスだったのですが、日本ではPerlとRubyが合同カンファレンスになっています。2001年当時、PerlはすでにCGIなどを中心にスクリプト言語として世界的にブレイクしていました。一方Rubyは海外での知名度が増えつつあったとはいえ、今ほどのユーザー規模ではなかった時代です。

YARPC 19101には筆者(懸田)も聴衆として参加しており、そこで初めてLTを目にしました。壇上まで並ぶプレゼンテーション待ち行列、Lightning(雷)という名の通りショートトークが次々に繰り出され、短い切り替え時間にあたふたするトーカー達、5分経過すると無情にもベルが鳴らされ終了となるスリリングな展開…LTは初めて見る筆者を釘付けにしました。

「Lightning Talksとは何か」という前田薫さんのYARPC 19101のトーク説明 11 にはこうあります。

Lightning Talksとは何か:

本家Yet Another Perl ConferenceでMark Jason Dominousさんが始めた「Lightning Talks」。 その誕生には「つまらん話を45分間も聞かされるのは苦痛だ」という辛辣な理由もあったと言う。 何をしゃべってもいい5分間。準備も少なくてすむし、アガってしまってもたかが5分。 時間になれば問答無用の打ち切り。 1時間で11個のTalk、話者交代は30秒だ。

ここで先ほどのMark J. Dominus氏のLTの説明をもう一度見てみると「Lightning Talksは60分もしくは90分の枠に、5分間のトークをつめこんだものです。」と書いてあります。しかし日本でYARPC19101が開催された2001年5月まで、世界に60分のLTは存在しませんでした。今までの事実を総合すると「60分LTはYARPC19101が最初である」という結論に行き着きます。つまり「11人で60分のLTは日本の文化」ということになります。そうです、誰がなんと言おうとも、そう決めたいと思います。

余談ですがYARPC19101のLTの中であの高橋メソッドの原型が生まれたという事実 12は基本として押えておきたいところです。ここ最近のLTでは高橋メソッドを駆使しているトークが多く見受けられますが、LTと高橋メソッドの相性が良いのは、こんな由来があるためなんですね。

このようにYARPC19101で開催されたLTは大好評に終わり、以降で多くのLTを生みだす元となったのです。

拡大 - ハッカー、そしてアジャイルへ

YARPC19101以降に転じてみた時に、日本でどのようにLTが広まってきたのでしょうか。日本における大きな流れは、LTを開催するイベントの主催コミュニティのタイプによって大きく2つの流れがあると考えています。

まずは正統な「ハッカー文化」としてのLTです。ハッカー文化はPerl、Ruby、Python、PHPなどのLightweight Language(LL)や、Linux、BSDなどのUnix系OSなどのコミュニティを中心に、様々なオープンソースのコミュニティの間にも広まってきました。もうひとつの流れとして挙げたいのが「アジャイル文化」としてのLTです。これはYARPCに参加してLTを体験した筆者を含む数名が、eXtreme Programmingのユーザー会である日本XPユーザーグループ(XPJUG) 13において、2002年のユーザー会でLTを開催したのをきっかけとしています。この文化を通じて、LTがハッカーではない、むしろ一般のエンジニア向けに広がってきました。開催イベントのコミュニティがアジャイル開発に関するコミュニティであることから、本稿では「アジャイル文化」と命名しています。

ハッカー文化としてのLTを見てみると、YARPC 19101以降ではLinuxConferenceでYARPC直後の2001年から2006年までLTが毎年開催されています。またOpen Source Conference(OSC)は、年に数回開催するカンファレンスのほとんどでLTを実施しています。Perl、Ruby、Python、PHPなどのLightweight Language(LL)界隈、または最近ではWeb2.0系のイベントでも高い頻度でLTが開催されています。技術系のイベントが増えると、それだけLTに触れる機会も増えているというのが日本の現状です。

一方、アジャイリスト文化を見てみると、XPJUGが年一回開催するXP祭りにおいては、LTは2002年から恒例のコーナーになっています。また、同様の流れで2004年からオブジェクト倶楽部14 の毎年2回イベントでも必ずLTを開催しています。

筆者が調べた範囲で、2001年から2006年にかけてのLTの開催をリストにしてみました(表2)。 2001年は上陸の年なので当然ですが、2002-2003年もLTは年に4回ほどしか開催されていません。しかし2004-2005年からその数が増えはじめます。そして昨年2006年に至っては、一気に20以上のLTが開催されているのです。昨年は単純計算で考えても月に約2回、日本のどこかでLTが開催されていた計算になります。

表2 日本で開催されたライトニングトークス一覧(2001-2006)

トーク特徴

ここで先にあげた文化毎のトークの特徴を簡単に見ていきましょう。

ハッカー文化のトークの特徴は、主に実装、設計に関するネタを取り上げ、発表者の熱い想いを凝縮して発表します。大抵は「こんな技術があるんだ、聞いてくれ!」という熱い想いのある発表者が多く、熱いトークが繰り広げられます。また優れたハッカーはユーモアセンスも優れている場合が多く、5分という中にユーモアを交えて聴衆に強く印象付けます。

一方アジャイル文化の特徴は、実装寄りの話よりもソフトウェア開発における課題をいかに克服してきたかという改善系(あるいは失敗)の発表が多いのことが挙げられます。更にはネタ系と呼ばれるエンターテイメントを重視したトークが多いのも特徴と言えるかもしれません。 15 これはコミュニティの参加者が、特定の要素技術によるつながりというよりも、「ソフトウェア開発に携わり現場を改善したいエンジニア」といったつながりであるためです。

またアジャイル文化のLTでお馴染になっているのが、トークの終了を知らせる「銅鑼(ドラ)」です。これは筆者と永和システムマネジメントの天野勝氏との会話の中で生まれたアイディアで、ベルやアナウンスなどよりも強烈に時間の終わりを知らせてくれます。 16 アジャイリスト系のLTではここ数年は必需品となっており、何人ものトーカーが銅鑼の洗礼を受けています。更には2006年のLLRingでは、なんとプロレスで使うゴングで終了の合図をしていました。この辺りの遊び心は本家のLTにも負けてないのではないでしょうか。

謎 - ライトニングトーク?ライトニングトークス?

LTの歴史を調べていくうちに、日本においては、LTの呼び名が微妙に変ってきているのに気づきました。YARPCでは「Lightning Talks」というタイトルでした。これはオリジナルと同じ、かつ5分のトークが11人分あるということで、複数形ということは納得できます。しかし2003年のLinux Conferenceから何故か「Lightning Talk(ライトニングトーク)」という名称に変ってしまいました。その後もカタカナで「ライトニングトーク」と「ライトニングトークス」、そしてアルファベットで「Lightning Talks」、「Lightning Talk」とイベントによって微妙にわかれています。ちなみにWikipedia 17では「Lightning Talk」となっていました。個人的に今後の行方が気になります。

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