AgileJapan2011 愛媛サテライト レポート(2) 自分の発表編
第一部に続いて、自分が当日担当した講演についてのレポート。
オープニング
この資料は、サテライトのオープニングの時間をとって紹介しようと思っていたのですが、そのような時間が取れず、自分の講演の時間に15分程の時間をとって話をしていました。時間の都合上すべての思いを話してはいないのでここに補足しておきます。
AgileJapan2011の開催一月前に、世界は "3.11" を体験してしまいました。そして日本人は、"After 3.11" をリアルタイムで体験しています。震災の後の原発事故という、世界にも稀に見る惨事と言えます。
私は幸いなことに愛媛に住んでいるため、余震の影響も受けていませんし、放射性物質の影響の低い立地にいます。しかし私の両親の実家は岩手の山中ですし、従姉妹や従兄弟は宮城県で被災し、遠縁は現在も行方不明です。
その中で、日本は世界に二つの姿、陰と陽の姿を見せたと感じています。
1つは 陽 としての日本の姿、つまり日本人の素養としての団結力です。災害の中にあっても、助け合い、略奪などは最小限で、組織的な行動を見せていた、という点です。これは世界に 日本の凄さ として改めて知らしめたと言えるでしょう。
一方、 陰 としての日本の姿、つまり二次災害である原発問題での対応の遅さ、情報の隠蔽とその体質、それに起因する混乱、その結果として国内に留まらない世界的な放射性物質の排出を世界中に対して行ってしまいました。これは逆に日本の恥であり、これまで変えられなかった真実の姿がもたらした災害だとも言えます。
ここにAgileを絡めて考えてみると、陽の部分はAgileが基盤としている チームワーク を民族として体現したと言えます。そして陰の部分は、Agileが変えようとしている、修復すべき構造とその振舞い、その結果引き起こされた災害と言えます。言い換えるならば、日本が備えている資質と、既存のシステムの欠陥という二つの事実を、噂などではなく国民全員が目の当たりにしてしまったと言えます。
この事実を受入れて、ふりかえりをして、次に何をしていけばよいのか、これは国民全体の課題だと考えます。そしてAgileJapanに集った人にとっては、Agileで変えようとしている ワークスタイルの変革 の延長線上に 国レベルでののシステムの変革 があることに気づいて欲しいと考えています。
ここで、 たかがITの開発のやり方で何を言う という方もいらっしゃるかもしれません。
しかしここで忘れてはならないのは 当事者意識 です。ソフトウェアシステム開発の現場においても、役割の専門分化の結果、当事者意識の欠如、境界の中へのひきこもり、その結果として 自分達とあいつら(Us vs Them) という意識が多くの問題を生み出してきました。
それらの既存のロールや境界を一度整理した上で、より上位の共通ゴール(=価値提供)を設定し、そこに向かうための境界を越えた協調がもたらすチームワークがAgileの根幹を成しています。このことは、単なるITプロジェクトチームだけに留まらず、そのまま国レベル、地球全体レベルにまでスケールすると考えています。
言いかえると、 当事者意識を持った一人一人の考えや行動が、社会全体に影響を及ぼす ということです。
これまでの自分をふりかえってみて、どれだけ 社会システムについて考えていたか?原発については?どんな社会のあるべき像を描いていたか? そこに向けてどんな行動をしていたか? 持続可能性というキーワードを日々使ってはいたものの、そこにどんな具体性があって、何をしてきたのか?
人それぞれだとは思います。しかし 3.11 を経験してしまった我々は、もはや「誰かの責任」にして済ませてはいけないし、「誰かがうまくやってくれる」という幻想を抱いてもいけない、と私は考えます。 すべては自分を中心に、何を考え、何を行動をしていくか、に掛っていると考えざるを得ません。
...と、話を大きくしすぎても焦点がぼやけてしまうので話を戻すと、Agileを取り巻く業界の現状に戻った時に、現場で「何ができるのだろう?」という悩み、「周りに理解されない」 という不安、恐れ、諦めは往々にしてあります。このような時に必要なのが Fearless Change であり、一歩一歩進める漸進的プロセスです。このような時期にLindaが来日してくれた、というのは、必然なのだろうと感じました。
偶然にも、平鍋さんのオープニングトークでも、同じようなことを語っていたのは共時性を感じざるを得ませんでした。
講演とワークショップについて
今回のAgileJapan2011愛媛サテライトの実行委員内でコンテンツ検討の際にでた意見の中に「参加者の対象を広くとりたい」というものがありました。これは、まだ愛媛がアジャイル発展途上で、裾野を狭めたくない、という理由がありました。
逆にターゲットを絞った方が、具体的になり、より価値の高い内容になります。しかし今回は、敢えて「どの分野が対象領域でもカバーできる内容」を模索していきました。
いろいろ考えた末に、辿りついたのは「課題からはじめるアジャイル」というテーマでした。具体的に言えば、それぞれの立場の人が、仕事についての何らかの課題を抱えており、それぞれの課題についての解決策としてアジャイルのプラクティスを考えてみよう、というものです。自分が困っている部分についての解決策であれば、より自然に選択肢として組込まれるのではないか、という発想です。
そして、このアイディアは、私が2008年にAgile2008に訪れた時に出会った一冊の本がきっかけとなっています。その本は Agile Adoption Patterns 。著者のAmr Elssamadisy氏 は、今年のQConTokyoで来日予定でしたが、残念ながら来日がキャンセルになってしまいました。この本は、様々なアジャイルなプラクティスをパタンフォーマットで再構成して、どのような状況に、どのようなビジネス価値に効果があるのか、気をつけるべき点はなにか、を解説する、非常に示唆に富む内容になっています。
アジャイルはビジネス価値によって駆動されることが基本です。しかしその「ビジネス価値」とは非常に曖昧な言葉で、そのコンテキストによって内容が異なってしまいます。 [1] しかしここを明確にしておくことはとても重要です。なぜならその価値によって、何をするべきかが決まってしまうからです。「Agile Adoption Patterns」では、そのビジネス価値の複数の例を提示して明確にした上で、更にその価値が悪くなっている傾向である「匂い」(Smell)を提示します。そして、それらのビジネス価値の向上、匂いの解決に適切なAgileのパタンを採択するようにガイドします。
そのため、まず「自分達は何が困っているのか」から始めることで、どこから手をつければいいのかが、わかりやすく、小さく進めることができるという利点があります。何より重要なのは、「Agileというラベルのついた得たいのしれない何か」よりも、より具体的で、効果がわかりやすい、という点が、初心者や懐疑的な方に向いていると言えます。
| [1] | : 端的に言えば「どれだけ儲かるか」ですが、その「儲かるため」に必要な条件は、その状況によって変るはずです。そのため「何に一番の価値を持っていくか」を考えて明示しておくことは製品のビジョン、プロダクトオーナーにとって重要なポイントとなります。 |
ワークショップ
自分の講演のネタを「課題から紐解くアジャイル」とした時点で、ワークショップはそれを実際に体感してみる、というものを考えてみました。いわゆる「自分の抱える課題を挙げてグループで考える」ワークです。一般的には対話によって、相互のメンバー同士で意見交換したり、解決策を考えたりするのですが、今回は、「Agile Adoption Patterns」に定義されている、数十のパタンをリストにして、それから適切なものを選択する、という形にしてみました。これらのパタンは、Agileをご存知の方なら、どこかで見たことのあるもの、あるいは名前は違えども、他で別の名前で聞いたことのあるものばかりです。つまりは プラクティス そのものです。このワークショップのインスピレーションとなったのは、私の心の師匠の一人 James.O.Coplien氏の「Scrum Fine-Tuning using Organizational Patterns」コースのワークショップでした。 氏のトレーニングコースの中で、自分の組織の課題を書き出し、それぞれに対応する組織パタンを考える、というワークがありました。今回はそのアジャイルプラクティス版になります。
しかし単に「課題」を表出して、それに合う解決策を探しだすことは、かなり難しいことが予想されました。実際には、その課題の裏の「どのような状況」の中で、「どのような考慮すべき点」があるのか、というコンテキストを明らかにしていくことが重要です。 には、何かを解決しようとした時に、新に生まれる歪みや課題についても考慮することが重要です。そのためワークショップでは、その「考慮すべき点」や「新たな課題」をきちんと考えて、グループ内で対話する時間を設けました。
ただワークショップに望む際にもいろいろ課題がありました。「参加者に学生が多いので、WSについていけないのでは?」「愛媛の人はシャイだし、業界も狭いので課題を書いてと言われても、素直に挙げないのでは...」。という意見もありました。
そのため、今回はゲーム要素を取り入れて、「真摯にじっくりと問題に向き合う」というよりも「考える時間を設けた上で楽しむ」という方向に倒すことを決めました。そのため 付箋を多く書き出した(=状況を詳細にした)チームが勝ち」というルールにしました。それぞれ付箋の色毎に配点を変え、「解決策を考えていくことが嬉しい」「対話をしていき、それをメモするだけでも配点に繋がる」というルールを加えることによって、ワークショップ自体を活性化させよう、というベタな仕組みを取り入れてみました。
結果的には、(効果があったかは置いておいて)、それなりに学生チームも、かなり頑張って内容について深く考えてくれていました。また各グループ毎に個性が出て面白い結果がでました。結局のところゲーム性はあまり関係なく、それぞれのグループが時間の中で真剣に話をできた、という状況だったと言えるようです。
今回は時間をかなり絞ってやりましたが、課題とパタンそのものについてじっくりと考えながら取り組むワークショップも試してみたいですね。(やってみたい、という方、是非ご連絡くださいww )
このワークショップを通じて、自分が再認識したことがあります。それは数々のパタン(プラクティス)の中で、どの領域にも効果をもたらすジョーカーが存在するということです。それは コミュニティへの参加 です。今回のワークを通じて、「コミュニティへの参加」という切り札を使う人が増えれば幸いです。
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